12 進化理論と進化の定義     私の進化論
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 ここでは私自身の生物の進化について記述します。

結論は次の通りですが、結論を導くためにはちょっと長い論拠が必要です。
そこであらかじめ、前置きと目次を載せます。ただし、進化はいろいろな原則や法則が交錯するために、同じ項目を重複して記述しています。(例えば体制の原則は詳しい記述と概要、まとめと3カ所でのべています。内容には多用の違いはありますが、ほぼ同様の問題です。煩わしいと感じる方は概要かまとめのどちらかでだいたいの筋は掴めると考えています。)

全ての生物に当てはまる進化の定義と進化の理論は、宇宙の法則と連動する。

生命の進化の基本は体制の原則にもとづくが、この法則は宇宙や地球の法則から由来したものである.

進化は、細胞膜の構造=細胞を基本とした、古生物学的な種の単位で進む.

生物の進化は細胞膜を持つ構造が、類をなし、変異し、体制の原則に沿った変異が定着する現象」と定義される。


 私の進化にたいする考え方は1から11までの検討でほぼ理解できると思います。その基礎は解剖学(体制の原則)、歯学(歯の形態形成の原則)、歯の形態形成原論(小澤幸重、わかば書店、2011年)にあります。これまでは主に問題点を個々に検討してきたので、ここでは1から11までの繰り返しになりますが、進化の定義まで掘り下げ進化の理論の概要をまとめて検討してみたいと考えます。

さてくり返しますが、私の視点、つまり立脚位置は専門とする歯、解剖学に基本をおいたものです。これは生物界全体からすれば大海の一滴にも満たないごくごく狭い領域です。ここから進化を検討するのは、節穴から大海をのぞく、あるいは「井の中の蛙」的な理論となる可能性が大です。否、これまでの進化論も、論者の知識量の大小はあっても、生物界全体からみればなおごくごく一部からの推定理論であり、大海の一滴から組み立てたものとしてはおなじかも知れません。

私はこれを自分の研究から原則を抽出し、哲学を用いて乗り越え、克服(普遍化)したいと考えてきました。ここでいう原則とは地球、宇宙との、物質界との共通の法則です。この視点をもつことが私と他の学説とのちがいだ、と自負しています。

そして、結論から言えば、生命の進化は、生命独自の法則物質界とも連動する原則2点に分けて検討するべきだと考えています。

目次

T 私の生物進化の分析方法について
 1) 立ち位置
 2) 哲学の利用

U 進化を考える前提 
 1)生物の進化とは何か  進化は物質の変化の一つである 変化とは時間である
 2)何故進化するのか 進化の原動力はなにか 
 3)生物進化の要因  
 4)適応放散について
 5)広義の進化と狭義の進化
V 体制の原則
 1)細胞膜と細胞
 2)集合と分節その繰り返し
 3)対称と平衡(安定、バランス)
 4)階層と法則
 5)律動と調和
 6)相補性と親和性
 7)嗜好性と定向性、そして特異性
 8)記憶(遺伝)と維持性、復元性(再生能、修復性)  
 9)能動性と放散性(拡散性) 
 10)変異あるいは多様性と適応
 11)不安定(矛盾)と安定性(平衡性)
 12)概略的なまとめ
 13)検討事項 
  1 螺旋 spiral
  2 大型化あるいは巨大化gigantism、小型化あるいは矮小化dwarfism
 14)要約
  1 変異と適応
  2 集合と分節(繰り返し)
  3 対称と平衡(バランス)
  4 律動と調和
  5 階層と法則
  6 矛盾と安定
  7 嗜好性と特異性
  8 記憶(遺伝)と定向性、復元性
  9 相補性と親和性
  10 能動性と放散(拡散)性 

W 生命=生物の進化とは
 1) 進化の視点(基準) 
  1 進化=系統発生は化石からのみ立証(実証)される。
  2 進化は古生物学的な「種」の単位で捉えられてきている。
  3 現生生物は進化の結果である。
 2) 生物進化の特徴
  1 生命の起源は細胞(細胞膜を持つ)=個体であり、この類=群れ(塊となることも散在することもある)が種を形成し進化する。 
  2 拡散性
  3 拡散に当たり、生物の全階層が環境との関係においてより複雑で発達した構造を獲得し、安定的傾向へ向かう、つまり適応する。適応は全階層間と階層内の調和を意味する。
 3) 生物進化の要因(原因)と様式(型)など
  1 単純から複雑へ
  2 嗜好性
  3 進化要因(原因)
  4 進化様式(型)
  5 多様性

X
 生物進化の定義
 1) 生物=生命の発達は、地球規模での長時間の変化と、日常的な短時間の変化に分けられる。
 2) 一般的に系統発生も個体発生も、安定な状態への変化である
 3) 進化の本質
 4) 変異性は内因も外因もある
 5) 生命の進化
 6) 進化の現実的な過程
 7) 生物進化の定義

Y 補足
    変異の定着について


T 私の生物進化の分析方法について

1) 立ち位置

私は、歯の研究と人体解剖学(組織・細胞・発生学を含む)から導いた法則(原則)を、体の法則つぎに生物界、さらに地球、そして宇宙(物質)の法則(原則)に共通の法則(普遍的原則)を抽出して、この普遍性から逆に生物の進化を検討する、という方法をとりました。このようにすれば、普遍的に生物の変化を捉えることができ、さらにそれだからこそ個体発生と系統発生のギャップを乗り越えられると考えられるからです。

2) 哲学の利用

私の理論形成と思考方法は哲学を利用しています。哲学は人間にとっての思考の学問ですので、これを利用して私の直接研究していない99.9%以上の領域をできるだけ客観的に判断したいと考えたからです。

哲学も様々な分野がありますが、私は自然弁証法、唯物弁証法がいちばん妥当だと判断して学びました(これに関する勉強では、師匠である井尻先生のお宅で資本論にふれ勉強する機会を与えられたことは何にもまして幸甚でした、同時にそれは井尻先生にとって何回目かの資本論の勉強で、一定の間隔で大阪に赴き哲学者で経済学者の見田石介氏と意見交換をして、その結果を私共に解説して下さるという幸運な機会でもありました)。この方法によって私の理論の妥当性を検証したいと考えました。

しかし、具体的には必ずしもこれまでの唯物弁証法に従っていません。たとえば「対立物の矛盾」などでは2者の対立が矛盾をして発展する(矛盾律)と考えますが、必ずしも現実にはそうはいかないのです。

たとえば、組織や器官が分化するときに、細胞学ではWintシグナルがあるいはソニックヘッジホック(Shh)が、あるいは上皮性成長因子Egfと間葉成長因子Fgf相互が相互に関与しるのですが、実際にはこれらの他にもたくさんの因子、遺伝因子が同時にあるいは多少ずれて働いていることが明らかになっています。現実的に発展に至る現象の原因を2者の対立と矛盾にのみ限定することはできないのではないかと考えています。分化し発展するには複雑な系の相互関与(制御と促進)があるというのが現実ですし、私もそれに沿って観察し、判断したものです。

もう一つ別の例をとるなら、哺乳類の腸の蠕動運動は消化管に沿った網目状のアウエルバッハの神経叢(自律神経節)とこれまた消化管に長軸と断面沿って分節する平滑筋の働きによるのですが、これらの神経叢(自律神経節)と平滑筋などの位置関係は、消化管の断面では多軸対称、長軸ではたくさんの分節の繰り返しとなります。このような左右対称以外の対称は体の中に沢山あり、このような器官などの分化や進化を考えるときに必ずしも2者の対立とは言えないと私は考えています。

注:師匠の井尻先生は、弁証法を粉々に砕いて再構築する必要がある、もっと自由な思考を、と書かれています。私の考え方がこれに相当するかどうかご批判を頂ければ幸甚です。

U 進化を考える前提

生物の進化を検討するには「進化はどうして起こるのか」、そして進化の「対象は何か」という前提、つまり「進化とは何か」という定義が必要です。

まず、私の扱う進化の対象は「地球上の生物つまり生命」です。この進化の対象は実に様々多様ですのでできるだけ同じ尺度で比較する必要があります。そのために共通の普遍的尺度=原則つまり「体制の原則」が必要となります。

ここでは以上の前提のもとに地球上の生物歴史の事実から導かれる「生物進化の特徴」、この現象から推定される「進化の要因(原因)」つまりなぜ進化するのか、「進化とはなにか=進化の定義」を検討します。

1)生物の進化とは何か

全ての生物における普遍性について 進化は物質の変化の一つである 変化は時間である

10の進化要因の繰り返しですが、我々が進化をたどり進化要因を解析するためには私が扱うテーマである「進化とは何か?」を明確にしておかなければなりません。世の中には宇宙の進化、地球の進化、機械の進化などなど、そして数多くの生命進化理論が渦を巻いているといっても過言ではありません。ところがここで共通する「進化」という用語は、なんとなくより高度によりよく発達するという意味で使われ、決して同じ意味で使われているわけではありません。たとえば「よい」といっても「何がよい」のか、視点を変えればそれぞれ意味が違うわけです。機械の進化と生物の進化は同じか?というように議論もでてくるということになるのです。

私がここで定義しようとしている進化の対象は、上記のように私自身がおこなった生物のなかの脊椎動物の体の、そのまた一部である歯の研究を通して得られた資料から検討するものです。それゆえに対象は地球上の生物の進化ということになります。さらに厳密に書けば、現在あるいは過去の生物の姿にいたる過程、ということになります。まあ古生物を扱っているととうぜんすぎることですが、現生の生物学をあつかうとこのような定義が必要なのです。

そして地球上の生物の進化は、全生物に共通の普遍的現象であり、その原因はおおまかに自然界と共通の原則生物独自の原則(=法則)からなります。

このような進化の法則は生物を直接検討して得るのがひとつの一般的な方法です。この方法は拙著(歯の形態形成原論、わかば書店、2011とエナメル質組織 )で行いました。そこでは、歯というごく一部の器官でも宇宙(物質)、地球、生物に共通する普遍的法則が働いていることを明らかにしています。つまり、歯は体の、そして体=生命は地球の一部として、地球は宇宙の一部として、全体に流れる共通の法則の下に動いている、そこには普遍的法則があるということで、ある意味当然といえば当然のことですし、生物独特の現象も突き詰めれば宇宙の法則が働いているのです。

換言すれば、生命は地球の、そして宇宙の体系の一つである、それゆえに生命の様々な変化は宇宙の変化の一つとして捉えられる、はずです。生命の進化もまた然りです。


2)何故進化するのか、進化の原動力はなにか

では何故進化するのか、進化の原動力は何なのでしょう(具体的な生命の進化の現象による定義、進化の個々の原因はあとに譲ります)。

進化が生ずる原動力は、宇宙何億光年の歴史の中に、地球の数十億年の歴史があり、その中に40億年といわれる生命の歴史、その結果として今の我々の姿があるという視点に留意する必要があります。

この視点に立つと宇宙や地球は常に変化(あるいは進化)し、その一つが生命の進化であることが分かります。当然ながら、宇宙の変化あるいは進化なくして生命の進化はあり得ないのです。そしてこの変化が起こる原因、つまり原動力まで掘り下げた議論は殆ど無いようです。ほとんどの議論が進化するという前提から始めているのです。

このような宇宙から生命へ至る経路の検討は井尻正二(ヒトの直系、大月書店、1977)、三木成夫(生命の形態学、うぶすな書院、2013)以外ないだろうと私は感じています。しかしここでも、進化の現象に焦点があり、なぜ進化するのか(なぜ螺旋的に発展するのかなど)という要因の分析はいまひとつ納得できません。もしあったらご教示ください。

宇宙や地球の歴史の中に生命=生物があるのですが、はほとんど進化していないようにみえる生物もいます。例えば原始的なアメーバや三味線貝などです。これ以外にも沢山いると思われます。

このように、生命の進化を地球規模で振り返ると静的に留まることはありえるのでしょうか?あるいは逆行する生物(先祖返り)はいるのでしょうか?はたまた宇宙規模でも静的な状態はあり得るのでしょうか?

この問には、ちょっと哲学的になりますが、時間の概念が問題になります。我々の世界では時間=変化なのです。生物の生きている世界では基本的に時間は止まらないのです。つまり静的な状態はあり得ません。その根拠は、まえにも触れたように絶対零度の状態でも量子力学では零点エネルギーがあり零点振動という運動=変化があるのです。生物の棲む世界ではこれ以上議論を深める必要ないと考えますが、物事は、常に時間に沿って変化する時間=変化と捉えることができます。それが我々の宇宙であり地球であり生物です。この生物学的変化の一つが進化と言うことになります(10進化要因を参照してください)。
 
 私の師匠の井尻さんも「古生物学的進化論の体系、化石研究会、化石研双書1号」のなかで、「物事がは変わることは一般的に変化である。変化の中には進化という変化もある・・・」と捉えています。

 つまり一見、先祖返りしたようにみえても階層を変えると進化してたりすることがあり、と階層の問題を含めて判断しなくてはいけないのです。特殊化も同様の問題を含んでいます。

 しかし、古来の哲学者ヘラクレイトスが唱えたという「万物流転」とか、日本でも「諸行無常」の理とか言われ、変化することは物質界の法則であることが認められていました。ですから、改めてここでは上記のように論ずる必要はないのかもしれませんが。絶対零度の状態でも変化があること、この変化のひとつが生物の進化ととらえるのが、私には自然だと考えています。問題はなぜ変化あるいは進化するのか、どのような要因によって変化あるいは進化するのかです。

変化の原動力は不安定であり、安定への移行が変化であり進化である 

ではなぜ変化が起こるのか?われわれの世界では、物理学における「宇宙は不安定な存在である」という命題につきると考えて間違いないようです。また前に記したとおり弁証法では「運動は時間と空間の本質である」(レーニン)とされますが、この運動は変化と捉えて問題ないでしょう。
 物理学からの認識論の分析(科学と認識構造、山本・田辺、昭和堂、1984)では、自然弁証法の基本法則に加えて、第一番もの法則として(本では第0番目としている)「すべての運動はその内的矛盾を源泉とする」と提案しています。これは矛盾=不安定状態が変化を起こし、同時に、完全に同じ物はない、ことを指摘しています。

これは、時間に沿った変化は不安定からより安定性の高い方向への移行と捉えて差し支えないのです(たとえある階層で不安定な結果となる現象も、階層をあげてみれば全体として安定化しつつあるのです)。しかし完全な安定はありません。よって存在する限り変化は永遠に続くと言うことになります。つまり宇宙の進化も地球の進化もすべてより安定的状態への移行であると言えます。

宇宙の例をとれば、(いまは仮定ですが)ビックバンも宇宙の不安定要素による変化と推定してさし支えないと思います。ブラックホールが星座を飲み込むのは宇宙の均衡をつくるためという理論はありうると考えます。それで宇宙のゆがみが均衡へ向かっていくと考えるのが妥当ではないでしょうか。

近年、(地震や造山運動など)プレート論が盛んですが、もしそれが正しければプレートによってマントル運動との均衡を保つものと推定するのも妥当だろうと考えられます。また造山運動は地球の変化の均衡を保つため、と理解されます。地層形成も高い山から平野への土の運動と考えれば均衡状態への運動です。また大陸と大洋の形成について対称的に理解する研究がでましたが、ここでも地球の不均一がその原因と説明され(太平洋の地質構造と起源:B.I.Vasiliev、東海大学出版会、星野通平監訳、2017)、均衡状態への移行と考えてさし支えないと考えます。

つまり、変化は常に安定化に向かう、といえます。


3)生物進化の要因

 以上のことから生物進化の要因をまとめると次のようになります。

体は安定し平衡状態にあるように見えますが、そうではなく常に不安定を抱えている、とうこと、つまり変異性あるいは多様性が最重要点だ、と私は考えています。これは生物全階層に認められるもので、この不安定要素を安定化(平衡状態)へ向かおうとする傾向があります。この変化が進化(系統発生)あるいは個体発生なのです。

 ちなみに、おおよそ、系統発生=生物進化は1万年以上、個体発生は代謝や発生、生涯は1万年以内の変化と捉えられます。この1万年は、現生の最長と推定される生物から推定した物です。(ここではヒドラやクラゲなどの例外は検討の余地があるためを除きます)
 
4)適応放散について
 
 生物学的安定とは、体外的(環境)、対内的(細胞から個体まで)の全階層の間と階層内の多様な調和、つまり適応放散のことです。

 安定化の良い例が(ちょっと極端に聞こえるかもしれませんが)、右手と左手の相互補助(相補性)、あるいは、体の痛い部位をさすり、あるいは傷をおさえ回復を待つ(保護する)という身近な無意識的な相補的行動です。これはいろいろな動物でも同じです、だから動物は飢えれば食べ物を襲うという傾向になるのです。

 不安定要因は、生物の進化では新しいより適した環境を求め、または環境に適応し安定化する傾向としての現象(=化石の証拠)と理解することができます。また個体発生も受精した細胞の安定化して成体となる過程、代謝なども同様です。

 大切なことは、このような不安定要因は自然界=物質界もまた同様であることです。繰り返しますが、かのA.アインシュタイの研究の発展による「宇宙は不安定である」という事実、同じ個体同じ細胞がないように自然界もまったく同様の構造はないという変異性、多様性の事実によって普遍的であることが分かります。物質界はつねに安定化(平衡状態)へ向かって化学変化や平行運動をしますが、生物は生物特有の進化や個体発生によって安定化へむかっているのです。

つまり、つねに変化はおこり安定な方向へ向かう、その生命の進化の原動力は不安定であり、より安定状態へ移行することが進化なのです。

それゆえ生物の進化(退化もふくめて)の原動力は不安定性であり、そこからより安定(平衡)状態への移行=変化する現象の一つが生命の進化です。ですから地球の生物の進化は地球が、そして生命が続く限りつづくということになります。

井尻さんの考え
 我が師匠の井尻さんの「古生物学的進化論の体系」では、進化の源泉は変異、これを引き起こすのが彷徨変異であるとして、彷徨変異を重視しているようです。生物の進化は変異が原因であることは同じですが、変異を起こすのは、変化というさらに深い原則であることは、生物の進化は変化の一つである、ということでさらっと流された感があります。でもここで不安定性まで突き詰め、物質の運動の原則までたどり着いたのではないか、と考えています。

当然、不安定化はあるのかという疑問も出てきます。私は無論あると考えています。進化の上ではこれが絶滅要因となり、個体発生の上では退縮、異常、あるいは病因となるのです。

5)広義の進化と狭義の進化

 一般的に進化というとより良い状態へ向かう歴史的変化というのが普通です。そして、生物進化の形態を発生、変化、繁栄、衰退(消滅)の4段階としてとらえることが多く(井尻;新版 科学論下、1977など)、ここには退化ととらえることのできる衰退あるいは消滅が最終的進化段階に含まれています。

 師匠の井尻さんは、この4段階は自然でも同じであり、普遍的な弁証法的発展の法則の生物版であると考えています。私は、生物進化の過程を観察し、これは階層性の問題だという結論を得ました。詳しく言うなら、人間の進化に伴って、退化器官が生ずること、人という階層を見ると進化しているが、一つ階層をさげてみると退化や消失があるということです。話を戻しましょう、生物界から一つ階層をあげると、つまり無機界でも同じ法則があるということです。つまり変化の原則ととらえることができます。

 そして、もう一つ言えることは、これらは無機界(一つ上の階層)の広義の進化と狭義(一つ下の生物界)の進化があるということ、どちらも退化現象を含んでいることです。「進化することは退化することだ」などの議論は、階層を捉えない議論であると私は考えています。如何でしょう?

 これは宇宙何億光年の歴史の中に、地球の数十億年の歴史があり、その中に40億年といわれる生命の歴史、その結果として今の我々の姿がある、ということです。このような宇宙から生命へ至るという検討は故井尻正二(ヒトの直系、大月書店、1977)、故三木成夫(生命の形態学、うぶすな書院、2013)以外ないだろうと私は感じています。  

 V 体制の原則

ここに示す体制の原則は、私の研究から導き出したものですが(5の生命細胞とは何か)、様々な生物現象の根底を流れる法則であり、生物界のみならず物質界(宇宙や地球)とも共通する普遍性のある原則です。つまりこれらは様々な進化の根底をも流れるものであり、進化要因を分析するために必要なものなのです。そして、この原則は、個体発生と系統発生を関連づける(反映する)原因を紐解く鍵として重要なものです。

これを強調する意味は、これまでの進化論は様々な進化現象をあげて個体発生と系統発生の両者の関係を論じているのですが、それを担保する根本原因、つまり進化の原因とされる個体発生の現象が何万年も繰り返して進化に至る保障、一定の現象が何万年もつづき維持される要因は何か?と言う点がほとんど顧みられてきていない、と私は考えているためです。

次に原則を個々に検討しますが、同じような項目や用語がなんども出てきます。これらを整理する必要があるのですが、ひとまずここでは我慢して原則を一瞥してください。

1)細胞膜と細胞

 細胞と細胞膜、これはすべての生物に共通で生物特有の基本的現象でもあり生物進化の基本をなすものですが、これに体制の原則の基本が含まれているためここで多少議論しておきたいと考えます。ちなみに歯の形成機構を扱っている私の研究の対象には当然細胞の観察も含まれていますので、身近なというより自分の問題でもあります。

 細胞をつくるのは、細胞内と細胞外(環境)との境となっている細胞膜です。細胞膜は全ての生物にあります。生物と無生物の境界などがいろいろ議論されていますが、細胞を独立させる細胞膜の存在がなければこの議論も成り立ちません。その意味で細胞膜は全生物がもつ共通の構造なのです(ここからより生物界ではより広範に存在する、つまり普遍的存在がより原始性があるという法則が導かれています)。これ以外に全ての生物がもつ共通の物質は水ですが、水は無生物界にも存在する、という点で100%生物特有だ、とはいえません。

 さて細胞膜は、細胞をつくりますが、その構造は二層性のリン脂質よりなります。疎水性の部分を二層の内側、親水性の領域を環境と細胞内へ向けています。この構造は基本的に全生物で共通であり、最古と言われる頁岩中の藍藻も二層性の細胞膜のようであり同様と推定されます。ですから細胞膜は生物を形成するための原則的構造と言ってよいでしょう。

 細胞膜は細胞境界膜(限界膜)としてさまざまに変化して細胞内外との関係を築きます。この変化には突起となる場合(鞭毛、繊毛、偽足などなど)と陥入する場合、膨らんで細胞からきれて遊離する場合などがありますが、それは各細胞それぞれによってさまざまな状況に即して変化します。そして細胞膜に付着してあるいは膜内にあって内外の連絡を補助するのが、膜蛋白、膜外の糖鎖(糖衣)などです。ときには細胞骨格と言われる微細管や原繊維も関係します。これ以外にキチン、セルロースなどさまざまな物質があります。


細胞膜の電子顕微鏡写真 膜の構造はリン脂質の対称的な2層膜とその表面に糖鎖構造などがあるのが分かる

  そして細胞膜には、イオンチャネル、ギャップなどという膜通過機構があり、また膜どうしの連絡や結合の構造(タイト、デスモゾームなど)もあります。

 さてこの二層性の膜が意味するのは何かといえばリン脂質の対称的配置、つまり対称性です。これ故に上記の細胞内外の関係がスムーズに作動できたのではないかと推定できます。生命の起源の時代にはリン脂質の単層、三層、四層などなどの細胞膜も進化上の試みとして存在したと推定できます。しかし、変化の多い細胞内外の環境に適応できたのは二層性のリン脂質で、その他の膜は消え去ったのでしょう。二層構造以外の異常な細胞膜はあまり注目されないため化石では見つけられていないと推定できますが、私はいずれ見つけ出されるだろうと考えています。 

 結論から言えば、細胞を観察することで、体制の原則である対称性はおおもととなる細胞からきているのだ、と考察することができます。

 無機界でも原子が集合して分子となる、原子の対称的構造が鉱物の結晶となるなど、対称の基本は変わりません。

 ここから言えることは、対称性は安定性あるいは平衡性を生む保証となる、あるいは平衡性を生じるための担保となると言うことです。この平衡へ向かう変化、対称性に担保された平衡への変化が宇宙や地球そして生命の進化である、と私は考えています。

2)集合と分節その繰り返し

生物は細胞が集まり、多細胞生物となりその組織あるいは器官を作ります。このような集合性の多細胞生物とならない場合でも、つまり散在する場合でも同じ性質の生物が散在的に群れを作り、あるいはコロニーなどをつくり、種を構成します。

哺乳類ではさまざまな細胞の集合が分節を形成し分節が集合して器官や個体が、さらに種などの群れを形成します。我々の身近な構成体ではそれが、民族であり、社会であり、器官系であり、器官であり、組織や細胞という事になります。これを階層性といい植物でも同様です。  

そして、おなじ個体、器官、組織、細胞の集合がたくさんあることが‘(対称性の)繰り返し’です。身近なヒトの体の例では体節、腎節、手足の指、趾、椎骨、肋骨などです。

さて物質界でも同じような原子が存在すること、原子は集合して分子となること、大陸と海が集合して地球が形成されるなど、地層群などの集合として一つ上の階層を形成するという共通の支配する法則があります。星雲や星座もまた同様です。

このことから、集合と分節は宇宙を初めとする原則といえると判断しています。


歯のアパタイト結晶の電子顕微鏡写真 OHの規則的構造(対称と繰り返し=律動)が観察される 

3)対称と平衡(安定、バランス)

細胞膜だけではなく、われわれの体の器官、組織は総じて対称的に位置します。ヒトを例に取れば対称性は左右対称のみではなく、頭臀、背腹、上下の対称などなどもあります。また肝臓や膵臓、唾液腺などは腺房が多軸対称になります、腸のアウエルバッハの神経叢や平滑筋の配列は水平断面では多軸対称、長軸的には分節の繰り返しになります。対称と言ってもさまざまな様式があるのです。機能的にもよく知られていることでは、骨格筋が拮抗筋で構成されること、自律神経はアセチルコリンとノルアドレナリンの拮抗作用で調和していることなども挙げられます。

このように対称性の意味は、平衡性を担保する、つまり安定性=平衡性は対称性によって実現される、というわけです。

人体を例に発生学的に各器官を見ると細胞の集団が分節的、対称的に分化することがよくわかります。有名な器官では、体節、神経や腎節や生殖器、筋節の分節の分化などなどです。消化管も例外ではありません、アウエルバッハの神経叢は神経堤細胞が、消化管壁を大まかですが消化管の分化と相伴い、ほぼ頭側から肛門方向へ集団的つまり分節的に分化し、最終的に腸の周りにネットワークを構成します(Nishiyama et.al.:Nature Neuroscience, 15,1211-1218, 2012, doi; 10.1038/nn.3184)。

つまり腸の長軸へはほぼ分節の繰り返し、腸の断面では多軸対称的な発生をするような神経堤細胞の分節的分化だと私は考えています。唾液腺の分化も同様で、導管を軸として周囲に対称的に腺房が分化します。歯も同様で上下の歯列、歯冠と歯根、咬頭や結節、歯根などが対称性を持って分化します。ここから咬頭は歯根を持ち、歯根は咬頭をもことが法則化されます。

これらの対称的な発生は、対称性によって体の平衡が実現されることを示している、と言えます(人体の対称的分化を詳述すると長くなるので別に論じる予定です)

 ヒトの体も左右、頭尾、背腹、深浅などなど様々な対称によって成り立つ。図は体の横断面の神経分布の対称性を模式的にしめした。(○は神経節)


神経系(黄)は背側へそして頭(前)方(脳から目、耳、鼻、口も更に前方に突出する)へと、消化・呼吸、泌尿・生殖器系(緑,黄土)は腹側へそして尾(臀)側へと対称性をもって形成される。いずれも繰り返し=周期的構造をもつ。

*これらの図の詳細な説明は歯の形態形成原論を参照

無機(物質)界に目を転じると、すべての物質は様々な対称性を示すと共にそれによって平衡性を保つ性質があります。原子が様々な対称性をもって配列する結晶。地球の山脈と地向斜、陸と海なども対称といわれます(前記の太平洋の地質構造と起源、B.I.Vasiliev、東海大学出版会、星野通平監訳、2017)。山脈の構造のアイソスタシーもまた対称と調和の問題だと私は考えています。

このことから対称性は平衡性を担保する生命から宇宙につうじる原則と言うことができます。

そしてここから推定されることは、何億光年あるいは何千万年の歴史的変化も何十年の変化も、それが何故続くのかという変化の原因あるいは要因として、不安定と安定つまり平衡という命題をあげることができるのです。

4)階層と法則

 生物ではおもに、種、個体、器官系、器官、組織、細胞という階層があります。種の上には、属、科、綱、目、門、界などがあります。これは何を意味するか結論から言えば、階層によって法則が違うということです。

例えば、個体は死んでも細胞は生きている(組織と個体の法則の違い)などでわかります。これが亡くなった方の角膜、心臓、血液などを移植するなど医学に応用されています。ナポレオンの死後伸び続けた爪からヒ素を検出し、死因はヒ素中毒であったことを証明したのは有名な話ですが、これも個体と組織あるいは器官の法則の違いによるものです。

人間の階層性はこれ以外にもあります。中枢神経には、大脳と小脳、延髄、脊髄さらに大脳には葉、回、脊髄には脊髄神経の分節など、肝臓など腺構造には葉、小葉、腺房など、筋には筋節、腎臓には腎節といった具合です。

忘れてはならないことは階層ごとに独自の法則を持ちますが、各階層は相互に関連性を持ち調和しつつ、より上位の階層で安定化する傾向を持つということです。例えばある器官系の一部が退化、あるいは退縮しても、器官系の機能は保たれるか、より効率が良くなるということです。退化器官がそのよい例です。例えば、腎臓形成過程で、前腎、中腎という組織が一過性に出現しますが、これらは退縮し、後腎組織の形成でより効率的な腎機能を持った腎臓が分化する、というものです。このような器官は人体の中には沢山あり、退化器官としての視点とその対称的構造を考慮に入れ、より階層の上位での平衡維持あるいは効率化(進化)をみなければならない、というのが私の考えです。

さて、無機界で我々がもっとも身近に接するこの現象は、原子(あるいは素粒子かクオークなど)から分子、様々な物質、地球、太陽系、銀河系とうとうの階層性があり、そこにはニュートン力学と量子力学などの階層による法則の違いがあるということです。

つまり階層性と階層ごとに特有の法則をもつこともまた、生命から宇宙に至る基本的な原則ということができます。 


オタマジャクシの皮膚の細胞分裂 ある細胞は周期的に分裂するが皮膚全体は普通に存在する、つまり皮膚と細胞の階層の違いによる法則の違いを示す

階層性は、進化や医療とくに再生工学を検討するときに非常に重要です。わが師匠の井尻正二さんも、対称性を「古生物学汎論・下」(築地書館、1972)や「新版科学論・上」(大月書店、1977)の中で再三検討され、地質学と生物学の階層を対比させ「鉱物-細胞・岩石-組織・葉層-器官あるいは器官系・薄層-亜種、品種・単層-種・部層-属・累層-科・層群-目・累層群-綱」としています(下線部分は個人的に示唆いただいた)。この対比は、生物の進化を念頭におき、生物進化の基本は細胞にある、よってもし地球の進化をいうのであれば細胞と同じカテゴリーを見だす必要がある、という面が強く出たものです。

40年ぐらい前に先生からこれを示された当時はただただ驚くのみでした。しかし、階層はそれぞれ法則を持つという面から考えれば、あえてこのような対比はしなくてもよいのではないかというが現在の私の意見です。地球には地球の進化があり、それは必ずしも生物の進化とおなじカテゴリーではない、というものです。地球の進化の中に生物の進化があるということです。

余談ですが、よく師匠の井尻先生は、「科学に階級性はあるのか?」という問いに、建築物を示されこれには闘争するような矛盾はない、「科学自体には階級性はない」とおっしゃっていました。それ自体は納得します、が、建物も古くなれば壊れます。つまり時間的変化はあるわけで、建物のより一つ下の階層では様々な運動があり、それが総合して時間的変化=古くなるということになります。また、社会的には古い建物から新しい建築へ変化します。私は、階層性の問題としてとらえると別の見方ができるということだと考えています。これは医学の再生工学にも当てはめることができ、何を再生するのか、人体に必要なものは何か、という問いを常に持っていないと、誤った方向へ向かう可能性がある、ということです。これは進化の課題を超えて、日本軍の731部隊やナチスのアウシュビッツにも絡む問題だと、私は考えています。

5)律動と調和

律動は周期性を持った繰り返しとも理解にもできます。これは構想的にも機能的にも言えることです。同じような構造の繰り返しは周期的変化のもとに形成され、このようにしてできている部分の集合する全体(種、個体など)が調和を保つということです。生物の繰り返し構造(体節など)は周期性(細胞分裂など)をもっと形成され、生体は繰り返しの代謝で個体が維持され一定の平衡を保つ=調和するということができます。

この良い例が、肝臓の構造と機能です。肝臓は肝小葉という小さな肝臓の細胞の集合の器官です。肝小葉は肝細胞の周囲に血管が配列した構造です。これを基本として少数の他の細胞が存在しますが、極めて単純な構造の繰り返しです。しかしその機能は栄養の貯蔵、胆汁の分泌、解毒作用など以外にも480もあるといわれており、その比較的単純な構造でどのようにしてこの多くの機能を果たすのかおおきな疑問となっています。それゆえ肝臓(ヒトの肝臓は脳と同じくらいの重量があり1.5kgくらいです)の再生は困難を極めています。

この数多い機能を解決するのが周期性です。肝小葉単位、あるいは一定の数の肝小葉の集合が周期的に機能を変えるとすると、この数の多い機能の処理を理解できます。周期性を持って機能を変える、ということです。

ではその周期性はなにかという問題が次に浮かび上がってきます。周期性、リズムの問題は体内時計として概日リズムがよく研究されていますが、体節ごとのリズムの可能性(Nature )、ちょっと違うかもしれませんがヒトへの感染とマラリア原虫の体内時計の研究など植物の成長、代謝、神経の活動、そして再生医療への応用など違った角度から研究が進んでいので、今後は色々な周期性が明らかになることと期待しています。

このような律動と調和もまた3)の対称性と同様に平衡性=安定性を担保するものです。

原子配列の繰り返しと結晶、大陸を構成する地層が繰り返しています。結晶などの構造、太陽系などは、もちろん完全とは言えませんが、一定の律動あるいは繰り返しがあり、全体的な調和が一応は保たれている(一応としたのは完全な周期性や調和は存在しないためです)。

これもまた生命と宇宙共通の原則と言えます。

6)相補性と親和性

これもあまり議論がないカテゴリーですが無意識的に日常よく使われている法則です。

親和性に関するなら、たとえば原始細胞が原始の海に誕生した際、原始海との親和性がなければ絶滅したはずであり、多細胞生物では細胞相互の親和性がある故に細胞同士が結合し個体であり得る、などです。移動した動物が新しい環境に親和性を持たなければ、そこのニッチを獲得することができず、また進化することもできません。適応の前に親和することが大切な条件です。医療にかんしても、たとえば腎臓などの移植では移植する臓器と移植される人の親和性が重要な要件となります。

相補性も身近な概念ですが、あまり意識されていません。私たちの左右の手は異なる動きをしながらある一定の目的(ご飯を食べるなど)に向かって一体として働きます。脳や目も左右対称的構造ですが、お互いに相補って一つのことを考え、映像を映します。つまり相補性は基本的には対称性のうえにはたらき、不安定状態を安定化するためにはたらいている、と考えて間違いありません。

同様に、歯の形態的相補性が上下顎の歯のかみ合わせをつくる個々の歯の形態となり、遺伝子の相補性は正常発生を促します。さらに我々の消化管の蠕動運動は、内輪走筋と外縦走筋の分節、これに関与するアウエルバッハの神経叢(自律神経節)の分節の対称的繰り返し構造の律動によって生ずるものであり、このようなさまざまな対称構造の律動は相補性を実現する、と言えます。

近年、Tilman et al.Nature,515,44-45,2014.は生物の集団が多様になると相補性を持つことを報告しています。他方、神経細胞の分化はミトコンドリアと関連するするScience:369,858-862,2020 、つまり細胞と細胞小器官の調和が明らかになっています。私は、今後このような事実が数多く報告され階層間の調和が解明されることを期待しています。


目的に向かって左右の手は異なる動きで相互に補い合う(相補性)

要約すると対称性は相補性の大切な一つの要件です。しかし、個体全体が調和を保つためには、違った階層の間の相補性もあります。右の腰の筋肉を傷めると左の腰でかばおうとして左側も痛めることはよく経験することです。腰の左右対称による相補性です。腰の痛みが進行すると背筋全体で左右のバランスを維持しようとして、背骨が曲がってしまいます。つまり一定の器官をこえた相補性が生ずるわけです。

このごろよく問題になっている唾液の出なくなるドライマウス、涙が少なくなるドライアイなどは、消化酵素や目を閉じるなどの相補的活性が生じます。

これらは、相補性が個体内だけではなく生物の全ての階層に、そして階層間にも認められることを意味しています。

物質の親和性は身近なものとしては、分子の親和性、原子や電子の親和性として問題にされます。たとえば身近な問題として、接着剤は接着する材料に対する親和性ということができます。結晶構造は、構成する原子や分子の親和性がないと成り立ちません。そして結晶を構成する原子や分子の相補性によって強度などの性質がうまれる、と考えられます。

つまり親和性と相補性もまた生命と宇宙に共通の原則とみなしうるのです。

7)嗜好性と定向性、そして特異性

 嗜好性は、とくに進化の問題ではこれまで議論の対象にすらなっていません。しかし、藍藻の細胞接着がどうして細胞の一部にのみ生ずるのか、長鼻類の牙が長くなる傾向、特定の生物が一定の空間的位置と食性を占めるのはなぜか?などなどは必然性による理論だけでは解決できません。そして嗜好性があるからこそ一定方向への進化(定向進化)が生じ、種の特異性を生み出す、と推定されます。定向進化などの議論の前提には嗜好性がなければなりません。そしてこの嗜好性は、一方では親和性を生じ、相補性につながるものです。

つまり嗜好性は、変異が生じたのち一定の方向へ進化するときの要因として働きます。つまり、変異と進化を結ぶ橋のような働きをするのです。それゆえ言っての方向へ進化する特異性の要因ともなるものです。

ちなみに人間の嗜好性は扁桃体や大脳辺縁系という大脳の古い部位(未分化な動物の脳に相当する)にあるといわれ、それゆえにその人本来の原始的性格をしめす、とも考えられています。じつは「好き嫌い」は本質的な問題なのです。

無機界では異なった原子が結合し分子となる時に、結合する原子の選択などの例が嗜好性とおなじ性質としてあげられます。そしてそれゆえに原子、分子、結晶などの特異性が表れるのです。

嗜好性と特異性もまた、生命と無機界、宇宙と共通の原則とみなしえます。

8) 記憶(遺伝)と維持性、復元性(再生能、修復性)  

生命の保存的要因というとだれでも遺伝子、遺伝をあげます。メンデル以降、遺伝子の研究が進み、いま分子遺伝学まで発展し、病気などの遺伝因子が解明され、再生医療では積極的に遺伝子治療がなされ、臓器再生にも応用されています。それだけ遺伝子は保存因子として重要な要因であることは事実です。そしていま進化は遺伝子で解明できる、とまでいわれ遺伝子による進化学、進化遺伝学の分野ができています。

しかし、私は、遺伝子は体を構成する一つの要素であり、それゆえに限界もある、と確信しています。また遺伝子による進化は、進化そのものではなく、推定であるとも考えています。進化の事実は古生物学のみで実証できる世界です。

よく古代人の遺伝子、恐竜や化石の遺伝子などが話題を呼んでいます。この遺伝子はDNAによって構成されているのですが、DNA自体がバラバラに壊れやすい上に器官、組織、細胞によっても変異があるのです。壊れていないDNA全体を明らかにするのも大変なのに、こわれたDNAの完全な復元は現在の科学では至難の業と言わざるを得ません。

さて近年エピジェネティックの話題が分子生物学や細胞学で報告されています。エピジェネシスは遺伝子が変わることがなく様々な現象が生まれるものです。つまり遺伝子以外の要因によるさまざまな生物学的変化を意味しています。

このような記憶による再生能は、修復能ともいい、ダメージを受けたときに本来の経路へ戻る性質のことです。これも、元の形象がより安定的ならこれに戻ろうとするのは当然の原理だといえます。ただし、破壊の程度が復元能力を超えた場合はその限りではありえません。我々の身近な現象としては傷がなおるなどがあげられます。

そして生物学的再生の一方の代表がプラナリアの再生です。この記憶はどこにあるのでしょうか。再生のプランは明らかに遺伝子に依存します。しかし、プラナリアは脳以外でも記憶することがわかってきました(J Exp. Biol. 216, 3799-3810, 2013)。つまり、遺伝子のみではなく体全体の記憶によるものと考えるのが妥当だと私は考えています。なぜならば、遺伝子の働きは大きなプランのみで細部にわたる再生を制御しているとは考えられません。

他に傷が治る場合などは、完全に治ったとおもっても完全に元通りにはならないことはよく経験します。

つまり遺伝子とエピジェネシスの記憶が相関するというのが妥当な推定だと私は考えています。

このように見ると、無機界でも、エネルギーの保存、あるいは半導体の記憶などが様々な例が記憶としてあげられます。身近な例を挙げれば、沸かしたお湯が一定時間温かさを維持することなどなど、記憶と言ってよいと考えています。むろんこれらの記憶には物質の種類、階層によって様々な機構がありますが、これは記憶の様式=型であり、宇宙にも様々な形態の記憶があるということです。

 

ゾウ(長鼻類)の牙と鼻の進化(下から上の図へ) 哺乳類の中でも特異的進化であり定向性がある。ほぼ全世界に分布した長鼻類全体の共通傾向(つまり環境に左右されない)であり、この仲間の嗜好性によると理解できる(Osborn より)

 定向進化などの定向性は記憶が遺伝子に維持される機構と言ってよいと考えられますが、これはむしろ上記の嗜好性で述べたように、嗜好性に依存する保守的な特質だと考えるのが妥当でしょう。いろいろな変化(変異性)のうち特定の嗜好性が生物学的に発展し、種特異的になり、特徴的となった進化の現象が、ゾウの牙が長くなる現象、キリンの首が長くなる等々の定向進化と考えることができるわけです。むろんこれらは遺伝子の働きも大切で重要ですが、種を中心にした全階層の記憶がなければ実現しないし、嗜好性や親和性がなければなりたちません。

さて、記憶は半導体の研究が典型的なように、すべての物質に多かれ少なかれもっている性質です。その典型に、磁石の磁性、スプリングなどの弾性などがあげられます。この根源には平衡になるという原則があります。もとの平衡へ戻るための記憶、あるいは元の平衡を維持する現象ともいえます。不安定性がますほど平衡性は減少し、記憶性も減少します。

このように検討すると記憶と定向性も、そして復元性も生物から宇宙に横たわる原則といえます。

9)能動性と放散性(拡散性) 

 生物は発生して以来、能動的に活動し拡散していく過程が化石から分かります。海から陸へ、低地から高所へ、地表から地球深部や深海へ低温、そして高温の環境へ、酸性域,

貧栄養環境など一般的には不利と考えられる環境へ、と生活圏が拡大しました。現生生物の生息圏はほぼ球全域(高度1万メートル以上から深海まで、地層深くに生息する菌から高山の動物や菌類、南極の生物、高熱耐性菌や酸耐性のピロリ菌などなど)といえます。ヒトも南アフリカを起源としてすべての大陸に移動分布したと考えられています。ゾウ(長鼻類)もまたエジプトに起源をもつと推定され豪州や南極大陸を除くほぼ世界中に移動し分布したことが化石から分かっています。そしていま人間は宇宙へ向かおうとしています。生命に認められる普遍性のある法則です。

 一方、宇宙では、ビックバン、星や星雲の誕生、太陽の熱源などの核分裂など、これらは能動性と拡散性をしめすといってよいと考えられます。つまり、能動性と拡散(放散)性もまた普遍的な原則といえます。

10変異あるいは多様性と適応

変異あるいは多様性とは、すべの生物は種、個体、細胞など、全ての階層において、また全ての代謝過程あるいは遺伝、発生において類似はするが完全に同じもの、類似はすれど完全に同じものは存在しないという法則です。同種で同じ機能をする、同じカテゴリーの細胞でも必ずどこかに違いがあります。これは「変異」という法則として生物学的には捉えられていますが、原則であるともいえます。

例えば、細胞分裂でできた新しい2つの細胞も、一卵性双生児も全く同じではありません。まえに示した歯をつくるエナメル芽細胞も機能も形態も、機能や細胞小器官、細胞の特徴は類似していてもどこかに違いがあり全く同じではありません。しかし、エナメル芽細胞が集合して細胞相互で相補し調和しあってエナメル質のシュレーゲルの条紋をつくり、最終的にエナメル質全体をつくります。これは私たちの顔が他人の空似、瓜二つ、または一卵性双生児とはいえ違いを見つけられるのと同様です。同時にこれは遺伝子の機能、代謝過程もすべてのレベルで完全に同じものはないこと、つまり変異があることを示しています。このようなことは特に意識しなくてもだれでも知っていることです。

エナメル芽細胞の電子顕微鏡写真(右)と光学顕微鏡写真(左) エナメル質を形成する細胞は、一見同じ形をしめすが、左を観察すると細胞小器官等々の配列や位置、形など同じものはない。

ヒトのエナメル小柱の横断像 一つ一つ形態の異なるエナメル小柱(断面)だが、全体として強固なエナメル質を形成する

変異、あるいは多様性はそれぞれの環境や、種、同種の細胞相互、などと同化あるいは親和し、相補されているのです。換言すれば適応しているのです。適応は相補性によって調和するのです。そしてまえに触れたように相補性は同じ階層の場合も異なる階層との場合もあるのです。エナメル芽細胞の例は、単にエナメル質を作るのみではなく、一個の歯、歯列全体、顎、そして頭部、体全体として調和します。これは個体と器官、組織、細胞の関係で相補や調和が行われることを示しています。

このように完全に同じものはないとう現象を私は「同一物不在の法則」と呼んでいます。変異、多様性の原因ということもできます。

 一方、物質界も同様であり、完全な同じ分子、原子は存在しません。たとえ炭素という原子でも、電子の回路、陽子、中性子とうとうまで比較すればすべて違います。例えば同位体がそれです。またこれらの原始、分子といえどもある条件では特定の原子、分子と結合する、これを親和性と言いますが、私は嗜好性としてよいと考えています。同じ形態の雪の結晶を作り出したという、驚くような報告がありますが(https://www.nytimes.com/2016/01/23/science/who-ever-said-no-two-snowflakes-were-alike.html)、同時に分子レベルでは違っていることも報告されています。ある階層で同じでも異なる階層では違いがある、ということです。

 物質界で一定不変だと言われている光の速さも、自遊空間では速度が変化するということが立証されました(Giovannini et al. :Science, 347, 857-860, 2015)。つまり光速さえも変異するのです。ですから変異はあらゆる物質に存在する原則であると考えられます。

 ちなみに化学や物理学では同じ物質(空間や質量など)を定義しますが、これはあくまでも仮定的条件であり、これがないと計算ができないためです。実際は、光の速度の例でも示したように変化、変異があるのが自然です。

 以上のようなことから、私は、生物以外の自然界でも変異があるとこと、同一物が存在しないのは普遍的な原則あるいは法則といってよいと考えています。それだけではありません、同一物が存在しないことは、時間、変化の基本であり、進化の基本的法則だ、と私は捉えています。

11)不安定(矛盾)と安定性(平衡性)

 矛盾は、進化の原動力をうみだす原因であり、不安定の原因です。これはほんとうの意味においての「進化の要因」ともいうことができ、生物が進化しかつ代謝をする根本原因です。あらゆる生命と生命構成体は常に平衡(安定)に向かいます。その原因は体内の不均衡つまり不安定の要因である矛盾にあるのです。逆に完全に安定した平衡状態、絶対的平衡状態では変化は生じようがありません。しかしこれは非現実的です、我われの住む世界には、絶対温度でも運動があるし、光速も変化するなど、まえにも触れたように絶対的平衡状態というのは存在しないと考えてよいでしょう。

この平衡状態への変化、安定化への生命の運動が進化(系統発生)であり個体発生(細胞分裂、細胞分化、組織分化、器官発生などなど)、そして代謝であるといえます。生物の種あるいは成熟固体でも比較的安定的に存在しているようにみえても、そこには不安定要因がある(内在する)、ということです。

古生物の形態も同じで、同種であろうと完全に同じ形態(安定形)はあません。これを進化過程は安定化への過程、つまり平衡への過程と捉えるのが進化の意味といえます。

では矛盾とはどのようなものでしょう。単純に言えば同じでない、異なることです。個体であれ器官あるいは組織であれ、同じ種類のものは集合する傾向があります。逆に同じようなものが集合したものが組織や器官あるいは個体、種などなどです。ところが前に示したように、細胞分裂でも全く同じ細胞が2つ生じるわけではありません。完全に同じであることは全くないのです。同じでなくとも同種の細胞や組織は共同で一定の働きをします。これは違う細胞相互で相補性や調和が働くためだと考えられます。ですから前に示したエナメル芽細胞は集団となってシュレーゲル条を形成するのです。この調和し相補することは細胞同士で多かれ少なかれ異なる点、矛盾があるためです。つまり変異、多様性がある限り矛盾が生じるわけです。これが不安定の要因です。

 弁証法的には対立物、相互浸透という概念があり、労働者と資本家、労働階級と資本家階級という対立物が例として挙げられてきました。しかし、自然科学の世界ではこれは、ここから2者の矛盾という概念を汲み取るのはあまりに形式的だと私は考えています。矛盾は2者でも3者でも4者など、その数はそれぞれの場面で違ってくるのです。この例を哲学の利用のところで一部を述べました。

遺伝子の二重螺旋構造の複製の推定図 

 また遺伝子、DNAは2重螺旋構造をとること、そして対立遺伝子という2つのDNA鎖で染色体が構成されることなどが広く知られています。しかしおなじ性染色体でもXYの違いが生じ、性差が生み出されます。また対立遺伝子は、対する遺伝子が劣性の性質を持つとこれを補うように働きます(相補性)。そのため劣性と考えられる性質が表現型とならないケースが多いのです(血友病など)。

 このように多様性、変異性の原因として矛盾、不安定があり、安定=平衡への原動力となると私は考えています。

 一方、地球や星の誕生と消滅までの歴史、つまり宇宙のガスが集まり、固まって、核分裂を起こし、発熱し、やがて冷えてゆく過程など。あるいは、高いところの土が低いところへ流れ地層を形成する過程など、安定化の過程と私は見ています。核爆発も同様であり人工的に核物質を作りだし(不安定化して)、核爆発をおこす過程も矛盾と不安定を作り出し作用であり、同様ではないでしょうか。

 つまり、矛盾は不安定を内在したもので、多様性、変異性と一体のものであり、安定化への過程としてとらえられば、宇宙と生物共通の原則性と考えてよいとでしょう。

現実的には以上に述べたいろいろな原則が相互に関与し補い合っているということが肝要な点です。そして相補性、調和性はつねに安定を求めており、かつそのために変異が生ずる、というものです。

12概略的なまとめ (もう少し詳しいのが 14)要約にあります。)

 一つは生物界の存在する構造についてです、階層性対称性集合性分節性などです。これは細胞が生ずると親和性によって集合し、分節が生じ、記憶によって繰り返し、復元性を持ち、その総体が階層性を作ります。これらは対称性によって相補性、そして調和性が生まれ、安定化する、というものです。

 二つ目は現象の変化や進化に関してのものです。変化は不安定がすべての源泉であり安定化へ向かいます。この変化は変異を生み、周期的律動的であり、嗜好性がありそれゆえに特異性が生じ、能動性があり、拡散してゆきます。

 この一と二は、相互に関連しつつ進化の過程をたどりますが、これらの原則をたくさんもつ現象ほど個体発生と系統発生とが相互に関連性を持つ可能性が高いということなのです。

注:体制の原則の用語の関連と意味について

ここで使っている体制の原則性としては、安定性stabilization平衡性balance調和性harmonization 親和性affinity相補性complementation適応性adaptationなどを使っていますが、これらが重複しているようで紛らわしく感じるかも知れません。そこで、ここで使っている用語の意味と相互関係について簡単にまとめておくことにします。

 安定性stabilization平衡性balanceと同義語として使い、進化の目指す方向を意味します。これは不安定性、不均衡(ともにunbalance)にたいする用語として定義しています。安定から平衡への過程としてさまざまな経路をとりますがその原則が調和し、親和性を持ち、相補的に働き、適応する、などです。

 適応は、進化のうえでは生物自身が変化して環境などへ調和する過程を意味することがおおいのですが、環境の変化も含みます。

親和性affinity調和性harmonizationと同義で使われることがおおいのですが、調和より変化が少なく環境などと共存します。むろん変化によって変異が生じ環境と共存するという意味も含まれるため、調和性とは重複するのですが、変化しない場合でも共存しうる状態を親和性いいます。つまり変化するかどうかです。

 調和性harmonizationとは、律動(リズムrhyme)を伴う変化によって共存し共栄する意味を強くふくみます。親和性より変化を伴う意味がつよく、とくに階層が異なる作用(変化)が一致する場合がおおいのです。しかし、肝臓移植などでは「移植した肝臓組織が移された体と親和性をもつ」と表現するため意味が重複して使われる場合が多いのですが、ここでは前にふれたように親和性は共存する、調和性は共存し共栄するとして使っています。

 相補性complementationは、対称的な構造や要因、機能(階層がこ異なる場合も含む)がそれぞれに変化して対称をおぎない一つの働きを達するばあいに使う。例えば左右の手を使って食事をする場合などを考えればよいとおもいます。しかし階層が異なる場合もあります。

 以上のように考えると、「相補性、親和性をもって変化し、個体内外で調和性する変化を適応する」といえます。

13検討事項 普遍的原則になるかどうか検討を要する課題

宇宙に通じる体制の原則はここに挙げたものは主要なもので、これ以外にもたくさんあると考えられますが、主要な項目を検討してみます。

1 螺旋 spiral

例えば私の師匠である三木成夫さんが唱えた「螺旋」(「生命の形態学」うぶすな書院、2013)です。木の幹、牙、角、ツタなどが成長過程で螺旋を描くことはどなたでもご存知でしょう。また師匠の井尻さんは、発展は螺旋的にすすむことを示唆しています。つまり世界も、思考も螺旋を描いて高い段階へ上るということです。
物質界でも鉄砲の弾が直進するように銃の筒の中に螺旋の条溝が掘られています。
このことから我々の見える範囲では螺旋は安定的に前進あるいは伸びることの担保のようです。

大星雲は螺旋を描いています、一方私の研究した哺乳類のエナメル質のシュレーゲルを作る細胞集団も動物によっては咬頭を軸=中心に螺旋形の配列を示します。星雲の螺旋形は多数の星が螺旋状に動いている事であり、一方エナメル芽細胞の集団も螺旋状に動いているのです、しかも周期的に、律動的に、です。

左がエナメル芽細胞の集団の螺旋運動(渦の中心が咬頭)、この螺旋で形成されるのがシュレーゲル条である(イヌの歯胚)。右が星雲の渦巻きの螺旋((NASA公開画像 M51 Hubble)。

 しかし、原子、原子を取り巻く電子が螺旋状に運動するのかわかりません。この法則の限界、どの範囲で法則として成り立つのかもっと分析が必要であると考え、体制の原則から外しました。ご意見を頂ければ幸甚です

2 大型化あるいは巨大化gigantism、小型化あるいは矮小化dwarfism

これは進化様式の項(躯体大化の法則)である程度検討しましたが、再度検討します。

体の大型化あるいは巨大化は、Copeをはじめとして恐竜、鯨類、長鼻類などの化石から提唱されペトロニイヴィクヅPatronymics.B躯体大化の法則として整理したものです。

生命の進化を見ると、多細胞化自体が、個々の細胞が小さくならないかぎり、大型になるのですが、これは大型化の第一歩です。多細胞化の場合個々の細胞が小型化しない限り小型化はありえません。

そして、進化が進むと、植物界でもメタセコイア(ハイペリオンは高さ110メートル以上で樹齢1000年ともいわれる)やオニナラタケ(同一個体とされる菌床が約9qで推定年齢2000年を超える)などの植物や菌の個体の巨大化もあるため、植物を含む生物全体、あるいは自然界全体の視点における法則性あるいは普遍性であるかも知れないというものです。

大きさの基準ですが、一個体での嵩あるいは重量の比較ということになります。しかし、もとより生物によって個体の基準は異なり一括りにはできない(オニナラタケはたくさんの個体(傘や柄)が集まったように認められますが、遺伝子が同じであるため同一個体とされています。しかしこれは個体の認識という意味で、細菌以外の生物と同じ範疇で論じてよいのか疑問もあります。つまり進化した動物などでは、組織や器官などでもDNAに違いがあることがわかってきており、どのていどの遺伝子の一致が同一個体とするのか問題が今後でてくると考えます。そのためこれは、おおよその比較ということになると、私は考えています。さらに進化上のという場合は化石による証明が必要であり、それ以外は推定となります。

そのような訳で、ここでは最古の生命である細胞の化石を基準とします。

生命の起源に遡上すると、生命は単細胞として地上に出現したというのが、化石ではまだ立証されていないのですが、現在もっとも妥当な推定でしょう。そして、生命は単細胞から一つのままの形態で進化し、他方は多細胞化するという経路を歩みました。

そこで最初の細胞のサイズがまず問題になるのですが、最古の生命の化石はガンフリントチャートの藍藻です。これは鎖状にのびるともいわれていますが、正確ではないようです。しかしその一つの細胞の直径が約2ないし5μmです。そして細胞膜の様子から、リン脂質の2層性の細胞膜の出現によって代謝が安定し、分裂増殖するとみられます(2層生細胞膜の安定性は細胞内と細胞環境に対する対称性による)。

ここから、代謝が初期の生命体で効率よく働くのは、現在のいろいろな細胞と合わせ比べると、直径数μm程度だったと推定しても許されるでしょう。それより小さくても大きくても地球環境、とくに初期原始の海では継続的に生きることは困難であったと考えてよさそうです。つまり適度の大きさだと推定されます。ちなみに我々の体の赤血球はだいたい直径が5~7μmですから、これと大差ないと考えられます。

さて、単細胞生物は大型化も小型化もあります。有孔虫では数mm径(ただし殻を含めた大きさ)、クセノフィオフォラでは数十cmとなる大型化が認められるのです。一方、小型化の代表はウィルスであり、小さいもので数十nmであり、細胞の一般的な大きさである直径数μm100分の一ほどです。つまり確実なウィルスの化石が発見されていない現時点伝では、小型化もありうると推定して差し支えないでしょう。ウィルスは寄生することに特殊化したため、おおもとの細胞より変化し小型化したと考えられます(ただしパンドラウィルスやミミウィルスでは数百nmの大型である)。また岩塩のなかには、23憶年まえの微生物(真菌の一種と言われる)が発見されているが、これが化石か現生生物かの議論はあるにしても、数μmの細胞より小型の例といえるでしょう。

以上の点から単細胞のサイズの進化には大型化も小型化もあった、むろん変化がないものもあった、とみるのが妥当でしょう。

一方、多細胞生物では、多細胞化じたいが大型化ですが、前述のごとく古生物の巨大化の例はたくさん報告されています。

ゾウ(長鼻類)の大きさの変異(Osbornより)

小型化の例としては、ジュラ紀の欧州のコンソグナトウス(Compsognathus)は約1mほどの小さな恐竜であり、やはりジュラ紀のスコットランドのスカイ島やアメリカでは20pほどの恐竜がいたとの報告があります(ナショナルジオグラフィック、ニュース、2009.10.21)。さらに近年世界最小の鳥の仲間であるハチドリの大きさに比較できる鳥形の恐竜も報告されています(Nature,579,245-249,2020)。

これらの小型の恐竜や鳥の小型化の原因は、矮小化の遺伝子などと言われていますが、進化経路はまだわかっていません。従って、小型化したのか、成長が止まったため先祖からの大きさが変わらないのかは今後の課題と考えられます。

つまり、恐竜は大型化のみではなく小型化あるいは変化しない進化もあったのです。

哺乳類も同様であり、ゾウ(長鼻類)の仲間のインドネシアのジャワ島やチモール島などには背丈1mに満たないブタ程度のゾウ(ステゴドンの一種でトリゴノセファルス など)がいたと推定されています(Osorn,Proboscidea,I,II,1945)。これは、大型のステゴドンというゾウの種類ですそのが3分の一くらいの大きさで、ゾウの先祖のパレオマストドンと同じくらいだったようです。もっともフローレスにいた原人は背丈1mくらいと推定され、ヒトもこの地では小型だったようです。ステゴドンはゾウの中でもとくに大きく背丈は4mを越していたものもいたようなので、このゾウは非常に小さく変化した(矮小化した)と考えられているわけです。

しかし、この矮小化したゾウが、先祖からそのままの大きさで進化したのか、ステゴドンから二次的に小型化あるいは矮小化したのかは議論があるところですが、一般的には矮小化あるいは小型化として扱っています。先に挙げた恐竜の例もこの点は同じです。

さて、一個体の各層をみると、例えばヒトでは、神経細胞の長さがメートル単位となることがあり、骨格筋細胞は癒合するとはいえ1mほどの長さになります。しかし神経系とすればヒトの松果体など縮小している器官もあります。各階層(器官や組織などなど)では大型あるいは小型、そして退化消失するのですが、個体としてはだいたい調和して活動しています。各階層も個体と同様に多様に変化するのです。

以上のような事実から、植物や動物でも大型化も小型化(成長が止まる)もあったとみるのが妥当なようです。つまり生命全体をみても大型化、巨大化、小型化=矮小化、あるは変化しない等々を認めることができ、多様な変化をして進化したといえるでしょう。ただし、成体の比較で、大きな体が小さく変化したことは、化石で矮小化の過程が実証されなければならない、というのが私の立場です。

ここから大型化、巨大化あるいは小型化、矮小化というのは「生命のサイズは変化する」として一般化、法則化するのが今のところ妥当だと考えられます。

次に物質界に目を向けてみます。宇宙、地球との関係を述べますと、2011年にノーベル賞をもらったのが地球膨張の立証です(サウル・パールシュミッターとブライアン・シュミット)。宇宙縮小説はいまのところ影を潜めています。星雲の起源などの説をみると膨張、拡大するというのが理解しやすいのです。

地球もまた膨張説、縮小説がありますが、後者は原始地球が冷えて固まる(安定化する)過程とすると我々には理解しやすいでしょう。そして地殻にだけ核分裂(不安定要因)が残ったとすると理解しやすいようです。いっぽう、膨張説は、牛来による地球膨張説(地球の進化:大槻書店)や、星野による地球微膨張説(地球の進化:2014、反プレートテクトニック説2010:イージーサービス)などがあります。これらは地球の科学的事実から導かれているのです。

のようなことから、私は地球科学に全くの素人ですが、地球は宇宙と同様に膨張や縮小を繰り返し律動的に進化したと考えられるのではないでしょうか。ここに、律動性あるいは周期性が立証されれば「変化には周期性がある」といえます。

以上の事から、生命、地球、宇宙は「変化する」というのがより普遍性がある法則となるようです。そして、大型化、巨大化はより範囲が狭い、あるいは低い階層での法則と考えられるのではないでしょうか。 

以上の原則のみを要約すると次のようになります。

14) 要約

 変異と適応

これはすべの生物は種、個体、細胞など、全ての階層において同じものは存在しないというものです。細胞分裂でできた新しい2つの細胞も、一卵性双生児も全く同じではありません。そしてこの変異はそれぞれ環境や相手の細胞、種などと同化あるいは親和している。つまり適応しています。

 物質界でもどうようであり同じ分子、原子はありません。たとえ炭素という原子でも、電子の回路まで比較すればすべて違います。

 「歯の形態形成原論」で抽出した普遍的原則は次のとおりです。

2 集合と分節(繰り返し

生物は細胞が集まり組織あるいは多細胞生物なる。あるいは集合しない場合でも同じ性質の生物の群れは種を形成する、など。

原子は集合して分子となる、大陸と海が集合して地球が形成される。一定の物質群、地層群。細胞群などの共通の支配する法則がある。

3 対称と平衡(バランス)

体の器官、組織は総じて対称的に位置する。

すべての物質は様々な対称性を示すと共にそれによって平衡性を保つ性質があります。原子が様々な対称性をもって配列する結晶。地球の山脈と地向斜、陸と海など。

4 律動と調和

律動は周期性を持った繰り返しとも理解もできる。

繰り返し構造は周期的変化のもとに形成され、このようにしてできている部分の集合する全体(種、個体など)が調和を保つのです。生物の繰り返し構造(体節など)は周期性(細胞分裂など)をもっと形成され、生体は繰り返しの代謝で個体が維持され一定の平衡を保つ=調和する。

原子配列の繰り返しと結晶。地層が繰り返して大陸がある。結晶などの構造、太陽系などは一定の律動あるいは繰り返しと全体的な調和がいちおう保たれている(一応としたのは完全な周期性や調和は存在しないため)。

 上記の3法則から次の法則を導くことができます。

5 階層と法則

 生物では主、個体、器官系、器官、組織、細胞という階層があり、それぞれに法則があります。階層によって法則が違うということです。例えば、組織と個体の違い(個体は死んでも細胞は生きている)などでわかります。

原子(あるいは素粒子かクオークなど)から宇宙まで階層性があり、ニュートン力学と量子力学などの対象と違い。

 さて何億光年あるいは何千万年の歴史的変化も何十年の変化も、それが何故続くのかという変化の原因あるいは要因としてつぎの命題をあげることができます。

6 矛盾と安定

 これは「進化の要因」ともいえ、生物が進化し代謝をする理由は、常に対称と平衡(安定)に向かいます。その原因は体内の不均衡つまり不安定要因である矛盾が認められます。逆に完全に安定した平衡状態では変化が起こりません。この平衡状態への変化、安定化への運動が生命の進化であり個体発生(細胞分裂、細胞分化、組織分化、器官発生などなど)、そして代謝であるといえます。生物の種あるいは成熟固体でも比較的安定的に存在していても、そこには不安定要因がある(内在する)、ということです。古生物の形態も同じで、完全な安定形はありえません。

 地球や星の誕生と消滅までの歴史、つまり宇宙のガスが集まり、固まって、核分裂を起こし、発熱し、やがて冷えてゆくかていなど。あるいは、高いところの土が低いところへ流れ地層を形成する過程など。

 さらにどうしても必要な原則がつぎの点です。

7 嗜好性と特異性

 この嗜好性は、とくに進化の問題では議論の対象になりません。しかし、藍藻の細胞接着がどうして一部に起こるのか、長鼻類の牙が長くなる傾向、とくていの生物が一定の空間的位置と食性を占めるのはなぜか?などは必然性による理論だけでは解決できません。さらに、嗜好性が一定方向に進化すると種の特異性を生み出す、と推定されます。

ちなみに人間の嗜好性は扁桃体や大脳辺縁系という大脳の古い部位(未分化な動物の脳に相当する)にあるといわれ、それゆえにその人本来の原始的性格をしめす、とも考えられています。

無機界では異なった原子が結合し分子となる時に、結合する原子の選択などの例がある。

8 記憶(遺伝)と定向性、復元性

ここでいう記憶は遺伝子のみではなく生物の階層全体にあると推定できるもので、それゆえに進化に結びつくと推定しうるのです。

無機界では、エネルギーの保存、あるいは半導体の記憶などが例としてあげられる。

9 相補性と親和性

 これも余り議論がないカテゴリーです。原始細胞が原始の海に誕生した際、原始海との親和性がなければ絶滅したはずであり、親和性がある故に細胞同士が結合し多細胞動物であり得るなどで分かる。

また相補性は左右の手、頭と骨盤など、対称的構造は相補うはたらきを持ち、それ故に不安定状態を安定化するためにはたらく。歯の形態的相補性が上下顎の歯のかみ合わせをつくる個々の歯の形態となり、遺伝子の相補性は正常発生を促します。

またTilman et al.;Nature,515,44-45,2014.は生物の集団が多様になると相補性を持つことを報告している。対称性があるがゆえに相補性が生じること、これは固体内だけではなく生物の全ての階層に認められる。

物質の親和性は身近なものとしては接着する材料に対する接着剤の種類などがあげられる。

10 能動性と放散(拡散)性 

 生物は能動的に活動し、拡散していく過程が化石から分かり、現生生物の生息圏はほぼ地球全域といえる(生物進化の特徴で触れる)。人間は宇宙にまで拡散しつつある。このような変化に対応する体の構造を持つ。

 星の誕生など、太陽の熱源などの核分裂など。

 W 生命=生物の進化とは

 
TとUの議論に必要なのは次の視点です。

1) 進化の視点(基準) 

1 進化=系統発生は歴史的な事実であり、化石からのみ立証(実証)される。

2 進化は古生物学的な「種」の単位で捉えられてきている。

3 現生生物は進化の結果である。

進化は、ある古生物学的「種」が長時間、万年あるいは億年の単位をかけて異なる種へ変化する現象であり、種は古生物学的な種の変化として捉えられてきました。この進化の結果として現生生物があるわけです。それゆえ生物学的(比較解剖学的)な進化の考察は、現在時間の法則からの推定であり観念的(思考上の推定)にならざるを得ないのです。

この点を鑑みて、系統発生を古生物学的進化、現生生物の比較解剖学を生物学的進化と呼んでも差し支えないのですが、実証の点からは前者が進化であり、後者は進化の「推定」です。(従って、個体発生と系統発生の項で挙げたように、両者の種、時間の概念が決定的に違うことを鑑みて、系統発生ではできる限り遺伝や遺伝因子、DNAという生物学的な用語を避けるか推定の議論として表現するのが妥当だと考えています。

 しかし、古生物学における証拠は不完全であることもまた事実です。系統的に地層が並んでいることはごく稀です、北米のウマの進化ぐらいでしょうか。そして化石も体全体の構造からみると不完全なことは免れません。この様なことを認識してもなおかつ化石と進化の距離は、現生生物と進化の距離より格段に近いと言わざるを得ません。それほど時間の壁は厚いのです。

2) 生物進化の特徴

進化(古生物学的)の特徴は次のようにまとめることができます。

1 生命の起源は細胞(細胞膜を持つ)=個体であり、この=群れ(塊となることも散在することもある)が種を形成し進化する。

2 拡散性:進化の結果、現在の生物の分布は、海と陸、極地と極高熱環境、深海と高山、無酸素環境と酸素環境など殆どの地球表面上のほぼ全域の環境(生物圏)に拡散し、いま人間は宇宙へ拡散しつつある。各生物は一応それぞれの環境に適応し生命活動を営んでいる。

 地球上の生物の生息域を生物圏とよびそれは、深海6000メートルから標高6000メートル、空中では1万メートルを超す(鳥、花粉)、極地―50度から高熱約+80度まで、さらにあらゆる地上の元素を栄養元とするなどが挙げられる。そしていまや宇宙にも生息圏を広げつつある。

つまり生物の進化は常に新しい環境へ適応しうる能力を獲得し、新しい環境へ放散するという、新しい可能性(環境)への拡大であることがわかる。ここでいう適応能力とは形態のみではなく代謝すべての能力のことである。

3 拡散に当たり、生物の全階層が環境との関係においてより複雑で発達した構造を獲得し、安定的傾向へ向かう、つまり適応する。適応は全階層間と階層内の調和を意味する。

3) 生物進化の要因(原因)と様式(型)など

1 単純から複雑へ 新しい環境への適応に当たり、個体は環境との相互作用において実に巧妙に効率的な発展的変化(高次性)を示し、これが種全体に広がり種が変化したことが化石から分かる。この変化は全体的に単純から複雑(高次)な方向へ向かうものである。

2 嗜好性 新しい環境への適応は、それぞれの種独特の様式=方法で行われ、種の特異性とは嗜好性に基づく。

3 進化要因 適応放散、用不用、自然淘汰、平行進化、ネオテニー(幼形成熟)、獲得形質、中立説、などは進化の要因あるいは原因です。

すべての生物に当てはまらない学説です。

4 進化様式 10で示したペトロニイヴィクスPetronievics,Bの24法則は進化の様式(型)です。

例:哺乳類で言えば長鼻類の牙、ヒトの脳など。これでいう適応とは、ある環境における安定性の獲得であり、現実的には適応、自然選択です。また適応とは、身近な例として、水泳選手の水に適した体型は、泳ぐことから必要な構造が発達して形成された物であり、そうなるためには泳ぐことが必要であり、これは一重に(強制も含む)嗜好性から来るのである。

  5 多様性

進化の様式みると進化は非常に多様性を持つ過程です。適応もまた多様な過程で行われます。しかし、進化過程を振り返るならば、概ね種や個体の進化は発展過程として捉えられます。進化によって、より新しい複雑で巧妙な機構による機能と形態を獲得するが、現象は多様なのです。その結果、種(集団)あるいは個体としての安定性を、(構造的には)対称性、繰り返し、律動と調和によって獲得します。しかし、獲得できずに消滅することもあります。進化を大きく区分した生成、変化、発展、消滅の過程は、非常に長く典型的な型であり、消滅しない種、途中の段階がないなどこれまた様々な進化過程があることが化石から分かります。

このようなことを考慮して、概ね、個体は単純から複雑へ進化すると捉えることができるのですが、全体(個体)としては複雑でも、個々の構成部分(器官など)は単純化あるいはより複雑化し、種全体として調和しつつより効率性が高まる、といえます。

*各階層、器官系、器官、組織、細胞における各階層の進化も同様にとらえることが出来ます。要はどこに視点を置くのか、ということです。

 X 生物(生命)進化の定義

以上に述べてきたことを生物学的視点をも含めて要約すると

1)生物=生命の発達は、地球規模での長時間の変化と、日常的な短時間の変化に分けられる。
前者は化石で示される歴史的変化であり、系統発生もしくは生命(生物)の進化とよばれる。
後者は生物の代謝も含む生涯Life cycleの変化であり、系統発生に対して個体発生あるいはたんに発生という。

2)一般的に系統発生も個体発生も、不安定状態から安定な状態への変化である。
 これにたいして、不安定な状態への変化は、系統発生では「退化」あるいは「退縮」「絶滅」である。個体発生では「病気」「老化」「死」となる。

3)進化の本質は、生命体=細胞(細胞膜を持つ構造)の変異性と不安定性にある(安定状態へ向かっても理想的、完全な安定状態は存在しない、それゆえ進化は無限につづく)。

4)変異性は内因も外因もあるが、いったん取り込まれた要因は(遺伝子のみの変化ではなく)細胞全体、個体、種、などの階層全体での変異に結びつき、変異が定着し、進化に結びつく。

5)生命の進化は、地球環境を多様に取り入れつつよりそれぞれの環境と種の特異性の基づいて特有の安定な方向(理想的な安定状態)へ向かう。

6)進化の現実的な過程は、細胞の集合による集団性、繰り返し構造に観られる周期性、安定性を作り出す対称性など「体制の原則」に沿った調和がとれた変異は地質学的時間に維持され反映される可能性が高い、それゆえ系統発生もまた個体発生に反映する、と推定される。逆に非対称性、不安定性=アンバランスが強くなると退化し縮小して絶滅に向かう。

7) 生物進化の定義

「生命=生物の進化」とは「細胞膜を持つ構造(細胞)が体制を形成し、一定の集合(種)となり、類をなして、地球上のあらゆる環境へ向かって、高次な体制を獲得して平衡を保つ方向へ向い、放散する歴史的時間の現象」といえそうです。

繰り返しますが、生物の進化の基本的単位は歴史的に古生物学的「種」であり、ここでは「種」を構成する全階層が平衡状態へ向かうのです。

 これをさらにスッキリと表現すると、生物(生命)の進化は「細胞膜を持つ構造が、変異し、体制の原則に沿った変異が定着する現象」である、となります。

 細胞膜は生命体、変異は現生生物の時間(個体発生)の法則、体制の原則は無機界、古生物、現生生物共通の普遍的法則で個体発生と系統発生を結ぶ鍵、変異の定着は古生物学的時間(系統発生)の変化です。

 Y 補足

系統発生と個体発生の関係に多少付け加えます。すでにみたように両者の関係は体制の原則によって相互に反映されるのですが、まだ解明されていないものを含めて、次のように要約されます。

進化=系統発生は生物(種)が新しい環境に向かって歴史的あるいは地質学的時間をかけて適応(新しい可能性を開拓)すること。適応に当たりより高度な構造や機能を獲得します。

系統発生と個体発生をつなぐものは「体制の原則」に沿った変異です。これが適応の基礎となり、系統発生が個体発生に、個体発生が系統発生に反映されることになります。


三木成夫による系統発生と個体発生の相関図(生命形態序説、うぶすな書院、1993)これが成立するためには「体制の原則」に依拠しなければならない。

 個体発生と系統発生を結ぶ「対英の原則」は、哲学的ですが時間(変化)空間(階層)の概念無くして理解することはできません。さらに変異は生物のいきている全ての代謝過程に生じる、という認識が必要です。

 この理解を助けるために、繰り返しますが「変異の定着」を改めて概略しておきます。

 変異の定着について

 変異、正確には個体と個体発生における変異性のことですが、これがないと進化が生じないことは自明です。問題は、個体発生と現在時間と絶望的な隔たりがあり法則が異なる進化=系統発生にこの変異がたどり着くかである。すなわち、個体発生と系統発生が相互に反映する問題です。

化石に後代の生物、あるいは現在の生物に過去の生物の痕跡が残っていることは、両者が反映し合う証拠であり、反映していることは確かです。いったいどのような変異であれば反映するのだろうという問題に、答えてきたのが反復説などだと、私は考えています。

 さて変異というものには、突然変異のような間違いなく劇的変化もあるし、細胞内、あるいは遺伝子の転写因子や代謝過程など、あるいはタンパクのように小さな目に見えないような変異も沢山日常的に起こっています。同じように見える代謝過程も全く同じではありません。この様々な変異の起こる要因は前にも述べたようにそれが物質界の原則だからなのです。その要因には生物体の内因も外因もあります。

 これらの無数の日常的変異が表現型になるためには膨大な細胞分化と発生の経路をたどらなければなりません(ある物質が細胞膜を通過するようしきは、100万通りとも200万通り以上のパターンがあるともいわれます)。つまり細胞内におけるじつに様々、気の遠くなるような要因との調和が必要なのです。そのうえで環境と調和することによってようやく個体発生の表現型として定着し比較的安定するのです。

 この表現型として定着する過程は、単に細胞だけではなく体の全階層、種の全階層で実現されなければなりません。種を含む全階層の表現型となると、まさに気の遠くなるような膨大な過程です。

 この変異が何万年、何十万年、何百万年も維持され、繰り返されて系統発生、そして逆に現在の生物に反映するのです。これを継続維持する担保要因はどのようなものでしょう。

 それは両者に共通の法則による、と考えられます。両者に共通なら短期であろうと長期であろうと関連づけることができるからです。この共通の法則が「体制の原則」だと私は考えています。

 「体制の原則」は両者のみならず物質界とも共通であるから、より普遍的だといえます。

 つまり「個体発生は系統発生に体制の原則(特に対称と均衡)を担保して反映する」いっぽう「系統発生の結果が様々な変異を持つ現生生物の個体発生である。」ということです。

 そして生物(生命)の進化は「細胞膜を持つ構造が、変異し、体制の原則に沿った変異が定着する現象」なのです。